フィルモアで2018年のゾンビーズを見た

先月上旬、仕事でアメリカ出張中にそんな幸運に恵まれた。ゾンビーズ、アメリカ西海岸ツアーの初日が出張最終日の夜。最後の仕事を終えて、職場からUberタクシーとカルトレインを乗り継いでサンフランシスコへ。これらの交通手段についても改めて書くかもしれないけど今回は飛ばして、会場のフィルモアに夜8時過ぎに到着。開演は夜8時半。いかにも由緒ある会場、開演時間まで歴代出演者のステージ写真や、60年代サイケ華やかなりし頃のポスター群の展示を眺める。フィルモアやサイケポスターについても、いずれ書くと思う。

20180907_203005.jpg

まずゾンビーズの前にフロントアクトのバンドが30分ぐらい演奏。女性ギターヴォーカルを中心とした3人組。ベースは白人男、ドラムは黒人男。ストレートなロックンロールで、ゾンビーズに影響を受けましたという感じではなかった。後半、スローな曲での歌がソウルフルで良かった。印象に残る個性はなかったけど自分を含めてフィルモアの観客は温かい拍手を送った。

会場に入ったときからステージにあったドラムセットに大きく「THE ZOMBIES」と書いてあって期待が煽られまくる。会場は席なしのオールスタンディング、自分は前座のバンドからステージかぶりつきの位置を確保して、とことん楽しむつもりでいた。ゾンビーズが登場したのは9時半ぐらい。60年代からのオリジナルメンバーはコリン・ブランストーンとロッド・アージェントだけ。しかしこのお二人、ほんとに年齢を感じさせない。

20180907_213454.jpg

「Roadrunner」から演奏が始まった。ファーストアルバムの1曲目。コリン、のっけからとても張りのある声でこのシャウトナンバーをパワフルに歌いきった。すごい。2曲目はいきなりアルバム未収録、BBCライブ版でしか聴いたことがない「The Look Of Love」。やはり60年代と何ら変わらぬあのスモーキーな声で、ゾンビーズに似合いすぎのバカラックナンバーを艶やかにしっとり演奏。すごいすごい。「I Want You Back Again」「I Love You」(好きさ好きさ好きさ、ですね)と初期ナンバーを続けた後、一転して近年の新曲をいくつか。演奏の前にロッドが話し始めて、新しい音楽を作ることで自分たちはエネルギーをもらっている、新作はビルボードのアルバムチャートに入った、これは「Odessey and Oracle」でも成し遂げられなかったことだ、という内容だったと思う。この「エネルギーをもらう(energized)」という言葉をロッドは後でもう一度使っていたのを覚えている。フィルモアの観客にエネルギーをもらった、ありがとう、と。本当にエネルギーにあふれたステージ。新曲もさすがロッドという感じの楽しめるもので、バンドとして現役なのが伝わってきてうれしい。

また60年代モードに戻って、「Tell Her No」をやってくれた。後奏の前、ブレイクして「ターン!」と手拍子が入るところ、バンド全員が顔の横でハンドクラップをキメたシーンが楽しくて今も鮮明に覚えている。格好良かった。さらになんと「You've Really Got a Hold on Me / Bring It On Home to Me」も演奏。ビートルズ版ではジョンとジョージのダブルヴォーカルというわりと珍しい曲で、自分はゾンビーズと一緒にジョージパートを歌いまくり。楽しすぎる。ゾンビーズ版はメドレーで「Bring It On Home to Me」を挟むアレンジがたいへん熱くて大好きなのだが、もちろん当時のままやってくれて、最高。

そして観客全員お待ちかねだったはずの「Odessey and Oracle」パートに突入。今年は発売50周年という記念すべき年。もう全曲再現してほしい勢いだったが、今夜は4曲やるとのこと。演奏の前にロッドがアルバムについての話を。当時は全然売れなかったが近ごろの若い世代が評価してくれるようになって、フー・ファイターズのデイヴ・グロールはこの曲が好きなんだそうだよ、と言いながら「Care of Cell 44」のイントロを弾き始めた。待ってました、本当に!メロトロンは持ってきていないようでちょっと残念だったけど、コーラスはばっちり決まっていたし、ベーシストもあの印象的な高音ベースパートを忠実に再現していたし、コリンの歌声は驚異的なほど若い頃のままだし、言うことなし。次は本作の中でも特別好きな「This Will Be Our Year」。ロッドがヴォーカルを取って「I Want Her She Wants Me」、4曲目はもちろん「Time of the Season」。録音当時はコリンがこの曲を嫌っていて歌うのを渋ったという話だけど、もちろんそんなわだかまりは一切感じさせず。コリンは自分がイメージしていた通り、ステージでは終始笑顔を絶やさず、とても素敵だった。そしてロッドの鍵盤。この曲のエンディングあたりからテンションの高い演奏をガンガン聴かせてくれるようになって、すばらしかった。イギリスから渡ってきてのツアー初日、向こうではいま朝の6時なんだよ、とぼやいていたが、時差ボケなど全然感じないテンション。60年代に第一線にいたロッカーって本当に凄い。

ロック史ではゾンビーズは「Odessey」の発売を待たずしていったん解散してしまうが、そのあとロッドが始めたアージェントの曲も、ゾンビーズとして演奏してくれた。そのアージェントの「Hold Your Head Up」、音楽的には今夜のライブで一番熱かった。間奏でロッドの鍵盤が大爆発。バッハの「主よ人の望みの喜びよ」なども交えながら、クラシック、ジャズ、ロックンロール、多彩な引き出しを次々と開けてくれた。ゾンビーズの曲のコード進行は、ほかの60年代ブリティッシュバンドとはひと味もふた味も違う。初期ビートルズを含め、ほとんどのバンドはアメリカンポップスの見よう見まねで作曲を覚えましたという感じだけど、ゾンビーズの曲にはもっと伝統的なヨーロッパ音楽の香りが濃く感じ取れて、あのロッドの演奏はそれをあらためて証明してくれた。近くの観客がスマホでこの曲をずっと撮っていて、演奏時間をのぞき見たら15分ぐらいやってた。全然退屈しない。

20180907_213505.jpg

「Hold Your Head Up」を演奏する前にロッドがこの曲についての話。みんなこの曲の歌詞を誤解していて、Hold Your Head Up、ウォーッ!だと思っているようだが、ほんとはHold Your Head Up, "Woman"なんだよ、とやけに丁寧に説明していた。英語ネイティブでもロックの歌詞の聞き間違い、いわゆる空耳って結構あるのかもなあ、とちょっと面白かった。

ステージ終盤、ゾンビーズの初ヒット曲も登場。「She's Not There」、自分がどこかで読んで覚えているエピソードなんだけど、ジューク・ボックス・ジュリーというテレビ番組にビートルズがゲストで出て、新曲を何曲か聴かされてどれがヒットしそうか判断するというコーナーで、ジョージがこの曲を選んだという。コード進行がいいね、と言ったそうで、自分も本当にそう思うし、さすがジョージはよくわかっていらっしゃる、という話なんだけど、どこで読んだのかは全然思い出せない。これもまた、間奏のロッドの鍵盤が格好良すぎで以下同文!とにかくこのライブでは、ロッド・アージェントの鍵盤奏者としての実力をまざまざと見せつけられた。

最後は再びアージェントの「God Gave Rock and Roll to You」。じつは自分はアージェントはほとんど知らない。この曲も知らなかった。ロッドの話では、この曲はとても有名なのだが、自分が作った曲だと知っている人は少ないとのこと。キッスがカバーしたらしく、それで有名になったということなんだろう。自分は知らなかったけど、一度聴いたら忘れない「皆で歌おう」コーラスを持つ曲で、いかにもロックアンセム、大団円。ゾンビーズがステージを去って客電がついた後もアンコールの拍手と、「ゾンビーズ!ゾンビーズ!」のコールが観客から起こってしばらく鳴り止まなかった。大満足。3週間のアメリカ出張は相当しんどかったが、最高の締めくくりだった。

20180907_224902.jpg

帰りもUberとカルトレイン(終電)を乗り継いで、ホテルに帰り着いたのが深夜の1時半。

この記事を書くにあたって当日のセットリストを確認したかったのだが、setlist.fmに当夜のものとして載ってるやつが全然デタラメで、同じツアーで別の日のセットリストを見て書いた。たぶん、毎晩変わってない。しかし、この日はなんとアンコールとして最後に「The Way I Feel Inside」をやってるではないか!ファーストアルバムに入っている、教会音楽みたいなほとんどアカペラの曲。大好き。これは聴きたすぎた。