The Corner Laughers

自分が近年出会った中で一番好きなバンド。サンフランシスコ出身で、ご当地らしさを強く打ち出しつつ、イギリスへの強い憧れも感じさせて、特にスウィンドン(XTCの出身地)との関わりが深いようだ。植物、鳥、動物、自然、歴史をテーマにした曲が多くて、そういうところも自分好みな、21世紀のカリフォルニア産フォークロック。ファーストアルバムを出したのが2006年、もう13年も活動しているのだが、自分がこのバンドを知ったのは4年ほど前、萩原健太のブログからだった。Bandcampでインディーバンドをチェックしているという健太氏が、彼らの2015年作(現時点での最新アルバム)「Matilda Effect」を紹介していた。自分には珍しく、文字から興味を持って音楽を聴いてみたのだが、まず自分がノックアウトされたのは、そちらよりその前作、2012年に出た「Poppy Seeds」の1曲目。



「Grasshopper Clock」は、21世紀に入って自分が出会った曲の中では五本の指に確実に入る、完璧な曲。コード進行も、カウンターメロディを効果的に使っているところも、自分のツボを突きまくっているし、バンド演奏のアレンジも素晴らしくて、聴き込めば聴き込むほど良さが増していく。時計が刻む時の流れをテーマにした歌詞は、一度ちゃんと訳してみたい。この曲を頭に持ってきたサードアルバムの「Poppy Seeds」がまず大好きになって、繰り返し聴いていた2016年夏、出張で彼らの地元サンフランシスコ近郊に行った際に、幸運にも彼らのコンサートが観られたのである。しかも、図書館前の芝生で真っ昼間の無料野外演奏。このシチュエーション、彼らにハマりすぎだった。

20160828_131149.jpg

観客は、バンドの友達や関係者のほかは、おそらく公園に遊びに来てその場に居合わせた一般の人々だけ。もちろん日本人は自分ひとり。この野外無料コンサートは、図書館が毎週やってる催しの一環のようだった。いかにも昔ながらのロックが好きそうな白人のおっさんが演奏に聴き入っていて、They're good! と自分に話しかけてきたのを覚えている。良かったよ、本当に。まだアルバム一枚しか聴いていなかったが、その場ではじめて聴く曲もどれも良くて、とくに印象に残ったのがこの曲。



現時点での最新アルバム「Matilda Effect」(2015年)に収録の「Midsommar」。今ではこの曲が一番好きかもしれない。まさにミッドサマー、真夏の陽光降り注ぐ週末の図書館前というシチュエーション込みで楽しんだコンサートだった。今では「Matilda Effect」も大好き。そしてラストはやはり、永遠の名曲「Grasshopper Clock」。これを待っていた。最高である。演奏を見終わったころにはすっかり魅了されてしまって、終演後ちょっと勇気を出すことにした。作品を自ら手売りしているようだったので、The Corner Laughersの面々からじかにCDを買い、メンバーに話しかけてみることにしたのだ。普段の自分なら、いくら好きなバンドのメンバーでも、直接触れ合うようなことはおっかなくて気が引けてとてもできないのだが、彼らの音楽がとても気に入っている日本人がこの場にいるのだと知らせたかった。日本から仕事でここに来て、幸運にも演奏が観られてとてもハッピーになった、とても魅了された、ということをとにかく伝えたかった。それで、メンバーに「I'm from Japan, I love your music」と話しかけたのだ。

このバンドの中心はシンガーソングライターのKarla Kaneとその夫のKhoi Huynh(読み方が全然わからない)。モスグリーンの格好いいバイオリンベースを弾いていたKhoiさんが応対してくれて、緊張しながらも伝えたかったことはひととおり伝えられた。そして、もしいつか日本で演奏してくれたらきっと観に行きます、とも。わたし、日本にはとても興味があるのよ、とKarlaさんも応じてくれた。当時まだ持ってなかった新作「Matilda Effect」と、Agony Auntsというバンドの2枚の作品「Greater Miranda」(2010年)と「Big Cinnamon」(2013年)を手売りしてもらった。Agony Auntsのことは全然知らなかったが、これも自分たちがやっているんだ、と勧められたので一緒に買った。The Corner Laughersの初期作品2枚は品切れで、彼ら自身の手元にもCDはないようだった(あとでダウンロード購入した)。素晴らしい演奏を聴けた上にメンバーと話もできて、胸がいっぱいになりながら図書館のある公園をぶらぶらと歩いた。

20160828_135921.jpg
20160828_135720.jpg

そのとき買ったAgony Aunts、聴いてみるとこれがまた良くて。Agony Auntsはたしかにメンバーは同じなのだがサイケなイメージの変名バンドという趣向で、もっとポップマニア的な面を押し出していて、これまた自分のツボを絶妙に突いてくる。このAgony Auntsは、The Corner Laughersに「Poppy Seeds」から参加しているギタリスト、KC Bowmanが中心となったプロジェクトのようだ。ほかにも色々な名義で音源を出しまくっている彼の音楽も才気とユーモアに溢れていて、The Corner Laughersのメンバーとしての巧妙なギター職人ぶりも素晴らしい。いつか彼のことも書きたい。

20160828_131644 (2).jpg
ライトブルーのストラトを弾いているのがKC Bowman

The Corner Laughersのことは、いつか記事にしようしようと思っていてなかなか書けずにいたのだが、3年前に観たコンサートのことを書く気になったのは、Khoi Huynh本人がそのときのセットリストをSpotifyプレイリストにしてアップしていたのを見つけたから。Spotify上では聴けない曲がいくつかあったのだが、手持ちの音源を曲順どおりに並べて聴いてみると、まるで現在までの4枚のアルバムから代表曲を網羅した本人選曲のベスト盤を聴いているようで、とても良かった。とくに「The Red Queen」から終盤5曲の流れが素晴らしい。この流れで「Grasshopper Clock」を聴いたら、何だかあらためてじーんときてしまった。ほんとにいい曲をたくさん生んだ、いいバンドだよ。



「The Red Queen」はファーストアルバム「Tomb of Leopards」からの曲で、当時はもちろん知らなかった。現在に至るまであまり印象になかったのだが、このプレイリストで流れて、これもすごくいい曲じゃないか!となった。スライドギターと4度マイナーのコード進行、大好きな世界である。ファーストはちょっと演奏面で拙い印象だったけど、最初から彼らは質の高い曲を作っていたのだ。ちゃんと聴かないと。