「Songs From Nothern Britain」が「Broken」で終わっていたら

「ノーザン・ブリテン」は90年代TFCが生んだ押しも押されぬ名盤のひとつ、これが一番好きというTFCファンも多いだろう。この作品が出たとき、デビュー作から「グランプリ」まで散々聴きまくっていた自分は当然ものすごく期待していたのだが、一聴してあまりピンと来なかった。とても丁寧に作られた質の高い楽曲が並んでいて、ヴォーカルハーモニーを重視したサウンドはタイトだし、間違いなく後世に残るエバーグリーンな作品だと思うけど、当時の自分がTFCに期待しているものとは違った。手堅くカッチリとまとまりすぎているように感じたのだ。タイトルにもあるように英国色を前面に打ち出してきて、TFCも地元に落ち着いてしまったんだなあ、と思った。ニルヴァーナにガーンとぶつかって90年代前半を過ごした自分はすっかりアメリカ寄りになっていて、TFCは英国出身ながらブリティッシュ色が薄くて、英米どっちつかずな感じが自分にとって魅力だったのだ。

前作「グランプリ」は今でも一番好きな作品。CDがレーザーで焼き切れるほど(とでも言えばいいんだろうか)聴き込んだ。「ノーザン・ブリテン」も音楽的には「グランプリ」の延長線上にあるはずなのだが、自分にとっては決定的な違いがあった。自分は今も昔もノーマンの曲が一番好き。メンバーの中で一番フレンドリーでシンプルそうに見えて、どこか得体の知れなさ、心の中がちょっと読めない不気味さがあった。もちろん完璧にポップな曲も最高だけど、「グランプリ」で言えばペインとかトラブルとかいった言葉が鋭く胸に刺さってくる「Mellow Doubt」のように、陰りのあるノーマン曲が一番好きだった。「ノーザン・ブリテン」ではそれが消えたように感じた。当時すでに30代に入っていたノーマンの内面が変化したのかもしれないし、そういう曲がアルバムのコンセプトに合わなかったのかもしれない。

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今年2月、ジェリーが抜けてから初めての来日公演で、TFCは「ノーザン・ブリテン」からの曲をたくさん演奏した。だからこのアルバムはあのライブの思い出と切っても切れないものになった。そして最後の最後に演奏した「Broken」。アルバムには入っていないが、シングルカットされた「Ain't That Enough」のカップリング曲。自分はライブで聴くまで知らなかった。アルバムにピンと来なかったので、カットされたシングルも集めなかったのだ。ライブの後、速攻で中古盤を入手して、いまは手元にある。「Broken」があのライブの真のクライマックスだったし、こんな凄いノーマン曲があったのに今まで知らなかった自分を恥じた。アコギ一本のコードストロークで始まり、遠くから歌が入ってきて、歌詞はひたすら「きみの心はまた壊れてしまった」の繰り返し。最後は深いエコーがかかったキーボードがひとり取り残されて、息が詰まるような寂寥感を残して終わる。このシンプルにぐっさり心の奥底に刺さる感じ、まさに自分が求めていたノーマンが、かなり極端な形で出た曲だった。そして、ノーマンはこのシングルのみでひっそり出た曲を2019年に復活させ、ジェリーと別れた直後のライブでラストに持ってきた。あのときは凄いものを見たと、あらためて。

昨晩、一日を終えてリラックスする時間に「ノーザン・ブリテン」のCDをかけて、2月のライブのことも思い出しながら最後まで集中して聴いて、今さらのように良い作品だなあと思いながら楽しんだ。聴き終えたらCDを入れ替えて、「Broken」もかけた。これでようやく、自分にとって「ノーザン・ブリテン」が完全な形になった気がした。「Broken」をアルバムのエンディングに収録せず、シングルのカップリングで終わらせたのは正解だったろう。「ノーザン・ブリテン」はあの形でいいのだ。始めから終わりまで楽しく聴ける90年代ロックの金字塔のひとつとして、ずっと歴史に残る作品。でも自分はこれから、このアルバムをかけるときは最後の付け足しとして「Broken」も必ずかけるだろう。

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