Teenage Fanclub「The Concept」

この曲でTFCと出会ったというファンはきっと一番多いと思う。自分にとっても、まさに出会いの曲。91年の暮れ、それまで聴いてきた音楽の世界がニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」という一曲にすっかり乗っ取られてしまい、92年が明けてからは自分にとってまったく未知だったアメリカのインディー出身バンドが次々と目の前に現れた。ピクシーズ、ダイナソーJr.、マッドハニー、サウンドガーデン、そしてTFCもイギリスだったけど完全にその流れだった。92年初頭に少し後追いで聴いた「Bandwagonesque」の一曲目が「The Concept」。その手のバンドに期待するとおり、ノイジーなギターで始まる。サウンドはラウドに歪んでいるが、コード進行やメロディーは60年代ロック直系の甘くてシンプルなもの、というのがその系統のバンドの特徴で、そういうところに自分はダイレクトに射抜かれてしまったのだが、その中でもTFCが奏でるメロディーの甘美さは一段上を行っていた。「I didn't want to hurt you」というコーラスをはじめて聴いたときに、ふわっと浮かび上がるような高揚感を覚えたのを今でもはっきりと思い出せる。ライブだと「to hurt you」からファルセットで上に重なるハーモニーが入るが、スタジオバージョンではもうひとつのハーモニーが加わって、主旋律と寄ったり離れたりしながら絡む。ビートルズだったらジョージが担当するところだ。これが美しくてすごく好きなのである。

1992年2月、自分が出会ったばかりの頃のTFCがサタデーナイトライブに出演して、「The Concept」を演奏した映像がある。当時、バンド仲間からVHS録画をダビングさせてもらい、何度も何度も観た。セミロングの髪を垂らしてニコリともせずに演奏する、90年代初頭のTFCはこういうバンドだった。



ギターソロを弾くレイモンドの後ろで長髪を振り乱しながらドラムを叩くブレンダンがとても格好いい。「Grand Prix」の前に脱退してしまったブレンダンの存在は大きかったと、この映像を見るたびに思う。当時のTFCが「The Concept」を演奏するときは、このようにエンディングのゆったりしたギターソロのパートをはしょり、「Satan」になだれこんでグランジーに終わるのが定番だった。自分はTFCのライブを90年代から長いこと観ておらず、一昨年のジェリー在籍最後の来日公演で久しぶりに「The Concept」の演奏を聴いた。2017年のTFCは、もう「Satan」はやらなかった。最後のコーラスが終わって一旦ブレイクしたあと、TFCはあのエンディングパートをしっかりと演奏した。90年代のTFCしか観ていなかった自分は、そのときはじめてライブであのパートの演奏を聴いたのだ。素晴らしかった。スタジオ版のギターソロのフレーズをレイモンドは忠実に再現していて、あのソロはレイモンドがロックギター史に刻みつけた紛れもない名演だったのだと、自分はようやく認識した。あれがあのときのライブのハイライトだった。それまで、エンディングのギターはわりと聞き流していた。はじめて聴いてから25年も経った2017年になって、自分はこの曲の全貌にようやく本当に出会えたのだ。遅すぎるよな。


本質的には3分間ポップソングだがエンディングパートのおかげで6分を超える長尺曲に

この曲の歌詞にステイタス・クォーは出てくるがコンセプトなんて言葉は出てこない。どこから来た言葉かわからないが、定冠詞付きのザ・コンセプトは当時のTFCにまさにぴったりな曲名だったと思う。90年代初頭に前述の米国バンド群を中心に盛り上がってきた新しい動きがあって、俺たちもイギリス出身だけどそのバンドワゴンに乗ってひと儲けしてやろうぜ、というのが「Bandwagonesque」というアルバムタイトルとドル袋ジャケの趣旨だったろう。「The Concept」はそんなバンドの名刺として、僕らのコンセプトはこんな風なんです、という自己紹介みたいなものだったと想像する。こうやって90年代初頭にTFCが打ち立てたコンセプトは、それから25年以上の歳月をかけて誠実に積み重ねた活動で厚みと強度をどんどん増していき、誰にも壊せないものになった。ジェリー脱退というバンドの根本を揺るがす出来事があってさえ、このコンセプトは壊れないことを今年の2月に目の当たりにしてしまった。あのライブでは新曲を演奏して前向きな姿勢を見せてくれたし、レイモンド作曲のニューシングルも出た。それからは自分が知る限り音沙汰がないけど、そのうち聴かせてくれるはずの新作アルバムを楽しみにしている。