「Oh! Darling」のベースを弾いているのは誰?

アビー・ロード50周年記念盤は聴くたびに、ああっ、こういうことだったのか!という発見があって、自分がこのアルバムについていかに知らなかったか、あるいは関心が薄かったかを思い知る。この記事で書きたいのは、ジョージがベーシストとして果たした役割である。前にも書いたように、ジョン不在で制作が進められた時期があって、3人でレコーディングした「Maxwell's Silver Hammer」と「Golden Slumbers」ではポールがピアノを弾き歌い、ジョージがベースを弾いている。「Maxwell」でのベースはかなり巧みな演奏で、フレーズの端々にユーモアを利かせる余裕もある。これまで、ベーシストとしてのジョージをあまり認識していなくて、全ジ連ギター弾きとしては不覚であった。ジョージのベースをよく聴くと、ポールのスタイルと似ているけどやはり少し違うことをやっていて、面白いのである。



このTake 12の終わりでも、3人の親しげなやり取りが聞ける。ポールが「今のはなかなか良かったな」と演奏を振り返ると、ジョージが「ダメなところもあったけどね」と混ぜっ返す。ポールが笑うと、リンゴの声で「George Harrison is resting his arm」というセリフが聞こえる。「ジョージ・ハリスン様が腕を休めておられる」という感じか。たぶん、リラックスしたジョージの様子が王様っぽく見えたのだろう。続いてポールが「このことを民に知らせよ!」と受けると、ジョージ王がオフマイクで「Kick Out The Jams!」と応じる。ずいぶんパンクな王様である。



MC5のオリジナルバージョンでは「Kick Out The Jams!」に続いて放送禁止用語を絶叫するが、リンゴは代わりに「ブラザーズ・アンド・シスターズ!」と穏当なセリフを叫んでドラムをダダダダッと叩く。これなら放送可能である。ああ、末期ビートルズがこんな冗談を飛ばし合いながらレコーディングしていた様子が聴けるなんて。いい感じでリラックスして作業を進めていたのがよくわかる。すばらしい。

自分もギターとベースを両方やるのでわかるが、ギターを弾き慣れていればわりとすぐにベースも演奏できるようになる。ベース弦のチューニングはギターの低い方の弦4本と同じ音(1オクターブ下)なので、ギターの要領で弾ける。逆にベーシストがギターを弾く場合は、まず弦が細すぎて違和感があるようで、余計な高音弦2本が加わってコードフォームも覚えなければならず、手こずるのだとベース弾きに聞いた。そんなわけでジョージのベースが巧みなのはそれほど意外ではない。ジョージのギターは中~低音弦の使い方が素晴らしいことは周知なので、元々ベーシストとしてのセンスにも優れたギタリストだったのだ。

ここでようやく記事タイトルにした「Oh! Darling」の話なのだが、この曲のベース、今までは当然のごとくポールだとずっと思っていた。「レコーディング・セッションズ」の本にもそう書いてある。しかし、アビー・ロード50周年記念盤のライナーによると、ベースはジョージだという。「Maxwell」と同様に、ポールがピアノと歌、ジョージがベース、そしてジョンがギターで加わる。ギターは一本しか入っていないので、この編成は十分にあり得る。ネットで検索してみても、ベースはポール説とジョージ説の真っ二つに分かれている。自分はここまでの話の流れからおわかりのとおり、かなりの確信度でジョージ説。



このTake 4を聴くと、ベースの演奏にやや弾ききれていないところが感じられて、ポールだとするとちょっとらしくない。実は、同じセッションで録音された公式リリースのテイクでも、タイミングを外した弾き損ねっぽい音が一箇所だけあるのは前から気付いていた。「Oh! Darling」のレコーディングは4月、「Maxwell」は6月。後者の演奏のほうがずっとしっかりしているので、「Oh! Darling」の後でジョージは本腰を入れてベースを練習したのかもしれない。いずれにしても、自分はこの曲のどっしり重量感のあるソウルフルなベースラインが大好きなのである。「Oh! Darling」を聴くときには、いつもベースに耳が行く。だから、あれを弾いていたのが本当にジョージだったとしたら、ジョージの黒人音楽に対する造詣の深さがあのベースラインに表現されていたのだとしたら、自分にとってはかなり大きなことである。

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「The Complete Beatles Recording Sessions」より、ベースを弾くジョージ