ジョージのストリングスの曲げ方

ジョージの命日はあさって11月29日。日本時間では30日の早朝。今朝は、去年の命日に音楽サイトuDiscoverに出た追悼記事を読んで、口々に語られるジョージの慈愛あふれる人間像にあらためてしみじみしていた。

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この中に出てくるエリック・クラプトンのコメントに、「彼のストリングスの曲げ方も気に入ってたよ」という表現があって、ここはちょっと「?」と引っかかるところである。ギターをやっていないと意味がわからない表現だけど、この「ストリングスを曲げる」というのは、ギターの弦をフレット間で押さえながら曲げることで音を変化させる、いわゆるチョーキング奏法のことだと思う。英語ではチョーキングでなくベンディングと言われることが多いようで、おそらくクラプトンが「弦をベンドする」と言ったのを「ストリングスを曲げる」と訳したのだろう。ギターはフレット楽器なので基本的にはピアノと同じように半音刻みの音階が出るのだが、チョーキングを使うと段階のない滑らかな音の動き、ポルタメント効果が出せる。いわゆる「泣き」のブルースギターには必須のテクニック。クラプトンはもちろん、この奏法の達人である。クリームのライブビデオに入っていた、クラプトンによるギターレッスンみたいなインタビュー映像、ブルースロックギターを躍起になって練習していた頃は繰り返し見たものだった。以下の動画である。2:50あたりからビブラートをかけたチョーキング奏法をちょっと見せてくれる。



チョーキングビブラートといえば、そのクラプトンによる「While My Guitar Gently Weeps」のソロ。チョーキングでAから一音半上げた後、大きくビブラートをかけながら徐々に降りてくる「泣き」のフレーズ。自分が高校生だった頃に初めて買ったギターは、近所の古道具屋で6000円ぐらいで売っていたモーリスのアコースティックギターだった。これをじゃかじゃかとコード弾きするだけで楽しくて、エレキギターを弾くことはあまり考えていなかったけど、この「While My~」のソロをクラプトンがどうやって演奏しているのかまったく理解できず、できれば知りたいと思っていた。同じギターなのに、モーリスのフォークギターでは全然再現のしようがない。こんな演奏ができるなんて、これが「ギターの神」と呼ばれる所以なのか、ぐらいに思っていたのだが。



高校2年生の頃、神保町の交差点近くのビル地下にあった中古ギター屋でエレキギターを生まれてはじめて試奏させてもらったとき、その謎は氷解した。チョーキングの原理、ギターの弦を押さえながら曲げることで、弦の張力が上がって音が変わるのはアコギでも何となく体得していたが、エレキの弦では曲がり方が全然違ったのだ。エレキとアコースティックの大きな違い、それは3弦(G)が巻き弦かそうでないかである。巻いてない3弦は柔らかく、いとも簡単に張力をぐいっと上げることができた。これなら、あの「Roll Over Beethoven」や「Johnny B. Goode」に出てくる「くわっか、くわっか、くわっか、」というチャック・ベリー定番のフレーズも、楽勝ではないか!試奏したエレキギターはその場で買って帰った。初めてのエレキギター、ヤマハの赤いギターだった。これで「While My~」のソロもめでたく解明できた。3弦が巻き弦でなければ、神でなくてもコピーすることはできたのである。

のちに、自分とまったく同じように、巻いてない3弦でチョーキングできることで眼の鱗が落ちる思いをしたギター弾きがいたことを知った。ほかならぬジョージである。どの本で読んだのか忘れてしまったが、自分の記憶によれば、ジョージはそれを「巻いてない3弦の秘密」と表現していた。その秘密を知った気持ち、よくわかる。若きジョージが弾いていたエレキギターは、アコギと同じく3弦が巻き弦だったらしく、前述のチャック・ベリー・フレーズをコピーするのに苦労していたという。チョーキングの代わりにトリルを使って弾いていたので自分のチャック・ベリーは「気取った」響きがしていたという発言も。初期のビートルズのライブ映像を観ていると、たしかに「Roll Over Beethoven」のようなチャック・ベリー曲で例のフレーズになると左手の指が縦に行ったり来たりしている。チョーキングだと縦方向に指は動かないので、スライドやトリルで対応していたことがわかる。こんなところでも、ジョージにとても親近感を覚えてしまった。


イントロの演奏、15秒あたりがまさにそう。間奏ソロの1:15あたりからも繰り返し出てくる。

解散後のジョージはスライドギターの比重が大きくなるので、やはりチョーキング奏法に関してはビートルズ時代の演奏が印象的。一世一代の決定的名演はやはり「Something」なのだが、全ジ連ギター弾きとして推したいのは、前にも書いたことがある「Dig A Pony」である。一般的にチョーキングは薬指で音をぐいっと上昇させることが多いけど、ジョージが多用したのは人差し指で下降するフレーズ。下降チョーキングの場合、まず音を出さずに弦を曲げておき、弦をはじいてから張力を緩めていく。チョーキングはアップよりダウンのほうがずっと難しいし、人差し指で曲げるのも慣れないとやりづらい。ここにもジョージ奏法の一筋縄ではいかなさが如実に表れていて、人差し指チョーキングの下降フレーズが出てくると、いかにもジョージ、と思う。「Dig A Pony」のソロではこれが効果的に繰り返し使われる。薬指での上昇チョーキングも、1音半ぐいっと上げたあとに別の弦で予想外な音に着地したり、尋常ではない使い方をしていて、ふらふらと奇妙だけどこの曲にはもうこれしかないという、すばらしい演奏である。同じチョーキング奏法を使っていても、普通の「泣き」のギターとは全然違う世界。これが、ジョージのストリングスの曲げ方。

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ギターマガジン2015年5月号表紙より