ジョージとインド音楽について、個人的考え

ジョージがビートルズの作品として発表した、インド音楽を大きくフィーチャーした曲は3つある。このうち「Love You To」「Within You, Without You」の2曲では、途中で拍数の違う小節が挟まる変拍子が使われている。どちらも基本は4拍子なので、タブラ奏者はティーンタールという16拍のタール(インド音楽のリズムパターン)で叩いている。4拍子が続く限りそれでリズムは合うのだが、変拍子のところでどうしても16拍単位のタールがずれてしまう。インド音楽に変拍子の概念はないので、タブラは1小節だけ拍数を増減させるような対応ができない。3拍子なのにずっとエイトビートを叩いているようなものだ。自分は中途半端ながらタブラを勉強したことがあるので、ティーンタールを認識できるようになってからは、この「ずれ」を意識せずにこれら2曲を聴けなくなってしまった。 インド音楽の世界には、7拍子とか15拍子とか、果ては9.5拍子なんていう、西洋音楽の尺度から見ると変態としか言いようのない拍数のタールが存在する。こう書くと、プログレみたく変拍子を多用する音楽じゃないのかと思われるかもしれないが、そうではない。「変な拍子」はあっても、変拍子はないのだ。これは、インド音楽を根本的に支配する概念であるタールが、一定の拍数で循環するサイクルで成り立っているから。ひとつの連続した演奏の中で別のタールが一時的にひょっこり現れることは決してない。ビートルズと関わるまではインド古典の厳格な伝統に従って演奏してきただろうイン…

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ジョージ・ハリスン帝国の謎

「Extra Texture」の邦題がなぜ「ジョージ・ハリスン帝国」なのか。少なくともネット上でこの謎に答えてくれる情報にはいまだにお目にかかったことがない。考え始めるとしばらく考え込んでしまうトピックで、クリスマスイブの昨晩も布団の中で寝付くまでこのことをずっと考えていた。原題の「Extra Texture (Read All About It)」は、新聞の号外を売り歩くときのかけ声「Extra! Extra!」をもじったものであることは周知である。この「号外!号外!」をもじった「極上の質感」という原題の意図も今ひとつわからないのだが、アナログ盤のジャケットにバスケットボールみたいなでこぼこした手触りの加工がしてあるのは、アルバムタイトルをさらにひねったジョージ流の駄洒落なんじゃないかと自分は思っている。つまり、「Extra Texture」は「余計な表面加工」という意味にも取れるのだ。ジャケットに要らないテクスチャーを付けてみました、みたいな。 ジョージに「帝国」という言葉はいかにもふさわしくない。ジョージの名を冠した帝国があるのなら、もちろん帝王はジョージなのだろう。「スライドギターの帝王」「慈愛の帝王」「庭とお日様ソングの帝王」……書いててアホらしくなるほど似合わない。ジョージに似合う称号は、押し出しの強すぎる「帝王」よりは圧倒的に「第三の男」なのである。あまりにも意味不明すぎて非難の声もよく見かける邦題だが、自分は決して嫌いではない。背後の意図が読めない不思議さは、原題に共…

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ジョージの命日と「Behind That Locked Door」の、個人的な思い出

ジョージが亡くなったのは18年前の11月29日、日本時間では30日早朝。訃報がこちらに伝わったのは30日午後、自分の部屋で仕事中のときだった。闘病中だということは知っていたが、まだ50代のジョージ、治療を受けながら健康的な生活をして、踏ん張ってくれるものと根拠もなく信じていた。そんなに早く本当に亡くなってしまうとは予期しておらず、受け入れられない気持ちのまま、ジョージの曲を集めたプレイリストを作ってシャッフルで流した。ビートルズのジョージ曲、ソロ、ウィルベリーズ。特にジョージファンの友人もいないし、当時はオンラインでジョージ話ができる人もなく、部屋でひとり黙って呆然と過ごしていた。もともと自分は感情の動きがストレートでなく、泣くこともめったにない人間である。大切なジョージの予期せぬ訃報を受けて、どうしたらいいかわからなかった。もちろん仕事も手につかず、何もできない。 Behind That Locked Door シャッフルで流していたジョージプレイリストから「Behind That Locked Door」が選ばれ、「どうしてまだ泣いているの?苦しみはもう終わったんだよ」という言葉を歌うジョージの声が聞こえてきたとき、自分はようやく泣くことができた。この歌い出しが、いまこの世を去っていくジョージからの声に聞こえたのだ。なんて優しい歌なんだろう。この曲に込められたジョージの優しさがそのときはじめて本当に伝わった気がして、素直に悲しみの感情が解放されたのである。それからは夜まで本気で泣い…

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